チーム「Link∞UP」は日本と北米の‘愉快で有益な’「マウンテンライフ」情報を日本と英語圏において共有をすること。 その生活を‘一生懸命楽しんでいる人達’のコネクション強化を図ることを目的に活動しています。 日本や北米でのマウンテンライフについて情報の欲しい方や私達に興味のある方はお気軽にご連絡下さい。

2019年11月19日火曜日

Vol.198 「初」なんちゃらについて思うこと

「加代は、ふしぎでたまらない。あんなに、つもってはきえ、つもってはきえしているのに、どうして、いつのまに、ふんでもとけないあつい雪の道ができるんだろう。土にとりついて、とけないで、上からおちてくるなかまをささえた、そのさいしょのひとつぶの雪を、加代は見たい。」『加代の四季』より

この文章を読んだのはいつ、どの教科書でだったかは忘れてしまった。しかし、雪国に住む者として、また毎年初雪に胸を躍らせていた少年として、この文章は深く心に残った。 私は 同じような疑問を抱きながらも、雪が積もり始める現象を同じ視点では見ていなかった。積雪を擬人化して表現したこの文章には、今でもなんとなく感動を覚える。

昨シーズンの初滑りは年始の立山だった

最近になって、壮年になった私はこの文章をふと思い出してググり、『加代の四季』というタイトルを知った。この時私が「ひとつぶの雪」に重ねたのは、登山やクライミングにおける初登頂、初登攀であった。これらの「初」という行為は間違いなく次にくる人を支えている。もちろん、本人にそんな意図はないかもしれないが、多くのその後に来るフォロワーにとってはそうである。

山であれば、登られていれば少なくとも人間に登ることが可能であることがわかる。フリークライミングであればグレードである程度客観的な難易度を測ることができる。さらに登っている人のことを知れば、さらに情報が得られ、それが身近な人で自分と同じくらいのレベルであれば、「奴が登っているなら自分も...」などと考えてしまう。それがボルトルートであれば、支点によって直接的に体重や衝撃を支えてもらうこともある。

日々ボルトに支えられている

何が言いたかったかというと、やはり「初」 というのは別物だということである。 その後、さらに良いスタイルで登られたとしても、それが可能であることを知った状態でそれをしたかどうか、あるいは事前に情報を得ているかどうか、というのは体験の質という意味で全く異なるということである。こんなことは色んな人が書いているだろうし、これ自体、何かで読んだり聞いたりしたことの受け売りに過ぎないのだろうが...。

クライマーとして未熟な私は、クライミングで「初」という経験はない。それに近い体験はしているのかも知れないが、誰も気にしないようなラインで、技術的難易度も低いものだ。故にどこかに発表する必要もないのだが、それでも気持ちの昂りというか、未知故の不安やそれを越えたときの興奮というのは、やはり得難い経験であったと思う。

山スキーにおいては、少しだがある。つまり人の記録を頼りにせず、自分で地形図や写真、時には登攀記録等を読み解いて、おそらく誰もやったことがないであろう滑降ラインを引くことである。ただ、今私にこれができているのは、卓越した発想力や技術があるからというより、日本にこのような行為に意義を見出す人が少ないからであろうと思う。

初なんちゃらは充実感がすごい

登山とスキーというのは分離して久しく、クライマーでスキーができる人というのは、本当に少ない。それに、日本は雪質が良く、メローで変化に富んだ斜面が豊富で、滑れるかどうかわからないような妖しい場所を求めるより、このような場所に楽しみを求める方が自然ともいえる。とはいえ、数が少ないからといって、その行為に価値が無いとは思っていない。少なくとも自分にとっては、生き甲斐ともいえる。それは相対的なものではなく、どちらかというと絶対的なものである。

運よく人がやったことがない滑降に成功したとき、私は基本的に記録を発表することにしている。それはこれまで登山全般において、他人の記録を参考にして計画を練ったり、記録を読むこと自体を楽しんできたからであるし、書くことが癖になっているからでもある。が、書くことで当然ながら失われるものもある。他人の、個人的な体験としての「初滑降 」 である。

そこが滑られていることを知らずに同じラインを滑った場合、それは初と同等の体験である。歴史的な事実としてそうではないとしても、本人には同じだけ強烈なインパクトを与えるだろう。できるだけ、その余地を残しておきたい気がする。スキーであるならなおさら、クライミングのように残置物が残ることは少ないから、情報があるかどうかの意味は大きい。そして、そのためには発表しないというのも、ある意味真っ当で正しい選択肢のような気がする。

ボルトを探す日々から

しかし、それよりも「初」ではないものを「初」として誤って発表してしまう人が出てくることの害の方が大きいと考えることもできる。もちろん、情報を「断食」することはできるから、別に発表してしまってもなんら問題はないとも言える。これはどこか、既にボルトが設置されているクライミングルートでそれを使わずに登ろうとする、いわゆる「残置無視」に近い気がする。どちらも情報や支点という便利なものがあるのに「敢えて」使わないような印象を受ける。しかし、やはりそれらは視界の端や脳裏にチラついて邪魔になるのではないだろうか。最初からなければよい、必要のない支点(これは解釈が難しい)は無い方が良いし、不要な情報は発表されない方が良いのかもしれない。

降り積もった雪を踏みしめる時、加代は「最初のひとつのぶの雪」のことを想った。大袈裟に言えば、「初」ものの記録というのはこれに応えるものではないかと思う。これはただその人が優れていたからできた行為ではない。時代、時期的なものも関連している。何らかの巡りあわせにより、その人にしかできなかった行為である。後から同じような体験をした人が、そのことを知るための媒体がどこにあっても良いのではないか、というのが私が記録を寄稿する理由かもしれない。

一昨シーズンの初滑りは11月の立山だった

と、まとめてみてから、新雪にたとえられるほどきれいなものだろうか、と疑問に思う。こんなときは人生の師・クラピカさんの言葉に耳を傾けてみようと思う。「コレクターは常に2つのモノを欲している。一つはより珍しく貴重なアイテム。もう一つは自分の収集成果を自慢できる理解者」。コレクターかどうかはさておき、私はとても珍しく貴重な体験を求めている。それと同時にそれを共有したり自慢したりできる他者を求めているその体験に同じように価値を見出してくれる人を必要としているのだ。つまり、欲望の塊である。

その行為の喜びを知った以上、たとえ共有する相手がいなくてもそれをやるだろうが、そもそも情報がなければ一生のうちにこのような行為にたどり着くことはなかっただろう。それはそれで良いような気もするし、少し残念な気もする。情報が増えて同じ嗜好をもった人が増えれば、競争率は高くなり数少ない残された未知のなんちゃらはすぐになくなるかも知れない。自分だけがこっそり楽しんでいてそれに満足しているというのが、最も身勝手で自然なのかもしれない。

堂津岳の稜線から乙妻山を見る
追記

次号ロクスノで山岳滑降の記事を寄稿させていただく予定です。その原稿をまとめている時に思ったことを、つらつらと書き連ねてみた駄文でした。最後になりましたが、きたる雪の季節が皆様にとって安全で実り多いものになりますように...。

2019年11月8日金曜日

Vol.197 盛り上がりを見せるロッキーのアイス、ミックスクライミング

バーチャルリアリティーを登るボブ
こんにちは。山田トシです。
10月に入りいつも通り毎週の休みにはアイスやミックスクライミングに出かけています。
今年のロッキーは現時点では当たり年と言えるでしょう。
ほぼ毎日と言っていいほど熱心なローカルクライマー達がファーストアッセント(初登)の記録をSNSに挙げていたり、滅多に凍らない滝を登っていたり、あそこも行きたいけどここも行きたい状態で休みが足りません。
一昔前までは滅多に凍らない幻の氷と言われていたバーティアルリアリティー。昨今は毎年凍りレア度も低めになってきましたが、シーズン初アイスには申し分ない相手でとてもいいクライミングが楽しめました。

バーチャルリアリティーをダウンクライム中のボブ。左がマーチンソンフォール(WI4+)と右バーチャルリアリティー(WI5+)マーチンソンエリアはアプローチも1時間弱、アバランチハザードもそれほど高くないので、お勧めです。
こちらはボブが狙っていた壁。
去年からボブが狙っていた壁にも行ってみました(手前のクーロワール)が、行詰まり途中敗退でした。つい先週にカナディアンが真ん中のラインを初登していました。残念!!

初めて訪れたプロテクションバレー全景(写真はフェースブックより)
昨年辺りから記録を見るようになったキャッスルマウンテン西側にあるプロテクションバレーにも足を運んでみました。アプローチは雪の少ないこの時期で約4時間半くらい。節理もしっかりしており、壁の傾斜も垂壁よりやや緩い感じでアルパインクライミングの対象として見ると素晴らしい壁でした。私が登っていた時に、別のパーティーは楽しそうにニューラインを登っていました。これまた残念!!

こちらが私の登った一番見栄えのするアイス。ダートバグドリームス(WI4+)。パノラマ写真の9番です。
左に垂れてる氷もそそられーますねー。
下山の一コマ。すっかり日の入りが早くなってしまいました。夕日にマウントテンプルが映えますね。
ここ一か月くらいでロッキーのアイス、ミックスルート合わせて10以上のニューラインがローカルのクライマーによって誕生しました。カナダに来て5年以上経ちますが、こんな状況は今までになかったように思います。ちまたでもアイスクライミング流行ってるんじゃないか?説が出てるほどです。今年はたまたまアイスの当たり年だからなのか。クライマーのモチベーションが爆発してブームが起きているのか。どちらにしろ自分も負けてられん!!と思わされます。
ローカルクライマーの一人として、この盛り上がりの一端を担えるようなクライミングをして、充実したシーズンにできればと思います。