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2021年6月10日木曜日

アルパインクライミング 考察 ファーストアセント

 


20年以上細々と氷と雪のアルパインルートを登ってくると少しずつ見えてくるものがあり、

どのようにして自分が登りたいルートを決定しているか、少なからず基準というものがある。

特にファーストアセントやハードルートのリピートになるとこれらを考慮して行う場合がある。

ちなみにアルパインクライマーはこれらのことを本能的にしている部分が多くあり、先輩方からすれば当たり前のことだとは思うが、説明するのは実はなかなか難しかったりするものなので今回文字に書いてみた。


近年、スポートクライミングやボルダリングの世界の発展が素晴らしい。

多くの危険を排除することによりスポーツとして肉体の限界に挑戦する。まさにオリンピックがいい例だろう。

それに比べて雪と氷のルートは危険だ。自分自身でコントロールできないものが多すぎる。

だがその中でも危険の確率を減らすことはできる。

そしてまた絶対になくならない危険性もある。それらを理解した上で雪と氷の壁に向かって行くクライマーというのは未知の部分に踏み込んで行くまさに冒険者だと思う。

そしてそれが登山の本質ということは忘れてはいけないことかもしれない。

グレードでは表せない違う難しさを今回できる限り掘り下げてみたいと思う。

また、これから若い世代の人たちがヒマラヤ、アラスカなどの未登の氷雪壁をトライするとき、少しでも安全な(簡単ではない)ラインを選べるアイデアになればと思う。



アルパインルートの選び方まず最初に地形を見ることから始まる部分がある。

大きく分けて3つに分けれれると考えている。

1、オーバーヘッドがない、または小さい。これが第一段階である。

ルートの上部、抜けぎわ、中間に雪面がある(雪崩れる可能性がある)

また、その大きさと形状。(小さければそれほどの威力にならない場合もある)

さらに雪庇、セラック、懸垂氷河の有無(その大きさ、そして雪庇自身に日に当たるのか?など)

2、アンダーフットが安定している。アプローチの雪の斜面の有無または大きさと形状。

登るラインの下側に崖やクレバス有無は万が一滑落や雪崩に流された場合の事の顛末に大きく影響する。

もちろん、これら全てを避けれるルートは少なく、どれかは許容することになるのだが、

雪庇の崩壊の確率と自分の真下が雪崩て流される確率は違うものだし、さらにその結果がかなりの確率で最悪なもの(死)なのか、流されても下がただの雪面なら助かる可能性が高いのかでは許容範囲は大きく異なる。

3、プロテクション

ほとんどの人はここを重視するはず。

岩質(カムやナッツが使えるのか)、氷の有無は登るという面ですごく重要であり登りきれるか、雪面の有無?(雪のクライミングは比較的簡単だから弱点として捉えるが、プロテクションや雪崩で考えると危険かもしれない)、トラバースが必要なのかなど、核心のピッチはどれくらいハードでどれくらいの長さなど、タクティクスに大きく関わってくる。

だがこれは私にとって三番目になる。なぜなら上の二つのどちらかが悪ければ、死ぬ可能性が非常に高く、ロシアンルーレット的な登り方をせざる得ない。(いいか悪いかではなく、その人のこだわりだが、自分が登れたとしても第2登される可能性は少ない。リピートされないのが悪いというわけでなく危険だからということは初登攀者は理解しておいてもいいところだと思う)

また、昔登られたルート(第2登されない、また数名のクライマーがトライしたが登れないライン)が登られない大きな理由としては、大きな懸垂氷河の真下を登っているルート、ラインの上部に大きな雪面のあるルートなど、登りの技術や実力関係なく、死を招く結果になることが多い。

また地球温暖化の影響でその地域の雪質が変化したり、氷河が後退し形状が悪くなるなどいろいろな要素が挙げられる。


これらを総合的に判断し、このラインは、このルートは自分にとって登るに値するのか、自問自答の末トライするかしないか、これを決定して行くのである。

安全と簡単は大きく違う、危険と難しいは一緒ではない。これがアルパインクライミングの面白いところなのである。


冒頭の写真の真ん中から左のアイスのラインは自分が友人と狙っていたものだが、よく見ればわかるがオーバーヘッドがほとんどなく、アンダーフットも最初の半分だけ気にすればいい、そして下半分は凹角でプロテクションがいいと考えられる。上半分は氷がかなり発達していてアイスでプロテクションが取れる、総合的に考えて、難しいがかなり安全なラインと言える。

結局今年(2021年2月に)他のカナダ人強強クライマーに登られてしまったが(苦笑)



そして現地に着けば、壁の状態を観察することになる。

(自分が考えていたより雪が多いのか少ないのかなど、写真と比べて、雪庇が大きい小さいなど、いい情報と悪い情報にわけ評価を下して行く。)

数週間前からの気象情報や雪の安定度(前日からの急激な温度変化、降雪、日射、風)

をチェックする。この時点で自分が考えいたものと大きく違えば(例えば温度が低いと予想していたのに暖かすぎる、雪が降らない予報なのに降っているなど)その日にトライすることは危険かもしれないと考える。

これらを考慮して最後の決定を下す。


そして登っている最中もこの自分の判断した壁の状態の評価を常に考え、コンディションが悪くなってくるようなら(自然発生の雪崩や落石、またその頻度や大きさ)引き返すという選択肢も常に持っておく。また雪と氷のアルパインルートは引き返せない、引き返すのが非常に危険な場合が存在するのでその判断する場所も考えておく必要がある。


もはやこれだけのことを考えなければいけないということ自体、登りグレード抜きで難しく、やりがいがある。

近道はなく、コツコツと準備を進め何年もかけ積み重ねていった先にようやく小さな達成があるのかもしれない。


スポートクライミングの世界は素晴らしい。

そしてそれとはまさに真逆と言っていいかもしれないアルパインクライミング。

才能のあるクライマーが数年の経験や10代でトップクラスに行ける世界とは大きく異なり何十年かけて築いていくアルパインクライミングの経験も価値のあるものだと考えるのは私だけだろうか?


谷 剛士