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2017年10月31日火曜日

Vol96. 雪崩危険度判断の指標

少しの違いで雪崩は置きます
大切なのは”なんで?”と思うこと
 Vol96は秋山が担当します。
日本で3週間ほど過ごしてカナダに帰ってきて早速スキー場でのパトロール業務を再開していますが、結構雪も積もっており、今年もスキーシーズンが楽しみです。

さて、我々スキーヤー、スノーボーダーの最大の楽しみの一つは何でしょう?
それはもちろん、バッフバフの新雪をスプレーを顔に浴びながら滑ることです!!
これ本当に病みつきになります。

下の動画は、2016年1月に旭岳行った時のもの。この日も視界はゼロでしたが深かったです。こんなのを毎日滑れたらそりゃー幸せな人生でしょう。



ただ、この新雪を滑るのに技術や体力、装備がいるのはもちろんのこと、皆が一番気にかけるのは何でしょう。そう”雪崩”です。
どんな急斜面でも、新雪でも雪崩れることがないんであれば、本当に楽しいだけですが、残念ながら人生そんなに甘くない。雪崩れます。そして雪崩れた結果で一番重いものというと、あなたの命、です。

いくら楽しいことでも命を賭ける程ではありませんね。

ということで、滑りたい斜面が目の前にあった、じゃーここを滑りますか?という時にどのように判断すべきなのでしょうか?

答えは簡単。
リスクが少ない場合に滑ればいいのです!
なるほど、なるほどリスクね、リスク。。。リスクって何さ!

カナダの雪崩教育は世界一です。そのカナダで考えられ、我々が意思決定に使う概念モデル”Conceptual Model”と言うものがあるので、今日はそのコンセプチュアルモデルを元にリスクについてを考えていきましょう。

雪崩地形における意思決定は、カナダではLevel2というコースで1ヶ月ぐらいかけてならい、その後現場で磨いていくものですので、このBlogで全てを説明するのは不可能です。ただ、雪崩地形を滑るのはこんなに複雑だよ、っていうのを感じて頂ければ幸いです。
 Avalanche hazard +Vulnerability & Exposure=Avalanche Risk
(雪崩の危険)+(傷つきやすさ)&(露出)=(雪崩危険度)
まずは文言の整理をしましょう。
Hazard(危険)とRisk(危険)という言葉がでてきますが、辞書的には一緒(両方共、危険)ですよね。
でも実は細かく違くて

Avalanche Hazard - a potential source of harm、ポテンシャルソースには頻度、規模が含まれます、つまり大きな雪崩が起きる可能背が高い場合はHazardが高くなります。

Avalanche Risk – the combination of the likelihood of the occurrence of a harm and the severity of that harm、先程のHazardにSeverityを追加されています。
ということで、Riskはハザード+そのハザードに対して自分がどれだけ耐えれるか(生身と車の中の違いなど)とその地形からどれだけ離れているか(ハザードが高くても遠くにいれば安全)を加味してリスクが決まるわけです。

既にややこしくて半分以上の読者がページをそっと閉じたと思いますが、要は、Hazardが高くても、家にいればRiskが少ないということです。逆にHazardが低くても、裸で崖の上を歩いてればRiskは高いということです。

雪崩のリスク理解できましたね。
リスクは、ハザード+傷つきやすさと危険への露出度。
なるほどハザードね。ハザード。。。ハザードって何さ!

ハザードについては、一般の方は、カナダであればAvalanche Canadaが出す雪崩予報、日本であれば日本雪崩ネットワークが出す予報を使用するのが手っ取り早いです。ガイドをお願いしてる場合は、ガイドさんが独自にこれを判断している(筈)ですので、聞いてみましょう。

自分でハザードを割り出したいというマニアックな方は、下記を参考にして下さい。
自然の状況
1. 最近の雪崩(種類、大きさ、原因、数、分布等)
2. 雪の状況(分布、弱層、接合面、スラブの厚み、重み、雪温、使用頻度、伝播)
3. 天気(現在、過去、未来、降雪、風、気温、直射日光、湿度)
4. 地形(斜度、方位、形、植生、地面の種類、地形の大きさ、高度、地形の罠、氷河)
よく見る、雪を掘ってシャベルでトントンするやつは、この中の弱層の部分を見ているだけなので、ほーんの1要素でしか無いわけですので、トントンしたのでLet's Goは少し焦り過ぎなのがわかりますよね?
反応度
雪面がどの程度簡単に反応するかを知りましょう。
自然に雪崩れるのか、人が誘発するのか。爆弾ぐらいのショックでないと誘発しないのか、など。

分布
上記の雪の状況がどの程度の広さだ分布しているのか?
この谷だけ、この山全体、この山脈全体、北斜面だけ、北と東、などなどです。
頻度&大きさ
上記の情報を掴んだ上で、その斜面の上に乗っている雪がどの程度の頻度で、更にどの程度の大きさで起こるかを予想します。小さい雪崩しか起きないとわかっているのと、絶対助からない大きな雪崩とでは、対処が全然違いますよね?
自信
更に大切なのは、その予想にどの程度の自信があるのかも鑑みます。情報が少なくて自信がないのはもちろんアリです。自信がないことを知っていることが重要です。一番怖いのは根拠のない自信ですね。

上記の情報を元にハザードを割り出すわけです。ふーめんどくせー。
そして最後は前述の頻度(自分のいる場所で起きるのか否か)と起きた場合の自分の傷つきやすさを総合判断して、Riskを割り出すわけです

私はスキーガイドが職業ですが、例えばお客さんと滑る際に、このRiskと更にグループのアビリティを加味して、滑るか滑らないかを決定していきます。

グループのアビリティ
1. リスク許容度(個人山行とガイディングでは大きく異る)
2. 滑走技術(その斜面にいる時間が長いとリスクも増える)
3. 現在時刻(夕暮れが近いかなど)
4. 1日の行程、皆の疲れ具合

最終的なポイントは、雪崩れるか雪崩れないかではなくて雪崩れた結果(RISK)がどうなのか?というところです。例えば、絶対雪崩れるけど小さいのしか起きなくて、流された場所が平たいところであれば問題ないですよね? 逆に小さい雪崩でもその先が500mの崖であれば問題大ありです。

また、お客さんが雪崩を見たことのないニューカレドニアから来た人とクレイジー民族フランス人とではリスク許容度も違うので、ガイディングも変わってくるわけです。夕焼けが迫っている最後の1本と朝イチの1本でも選択は変わりますしね。

ということで、長々小難しい話をしましたが、ここで机上で理解したと言っても、所々の言葉を全てひっくり返す判断をするのが人間。つまりヒューマンファクターが最後に入るので、あー難しい。
ヒューマンファクターについては私の個人のブログに大作がありますので、そちらをどうぞ。雪崩におけるヒューマンファクターについて

ただ、声を大きくして言いたいのは、Riskを判断しないで山に入っている(何も考えていない)のは経験でもなんでもないですし、ヒューマンファクターでもなんでもないです。ただの盲目。雪山は危ないので、ちゃーんと勉強しましょう。その手間を簡単に省きたい方は、 ”ガイドを雇う”ことです。ただそのガイドさんも上記の思考プロセスを踏んでいる必要はあるわけです。ここで20年滑っているから地形を知っている、雪崩れたのを見たことが無い、というのは経験/知識とは言えないわけです。

さー今年の冬も安全に楽しみましょう!

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