スリップストリーム(Ⅵ,WI4,950m) 正面壁右端のセラックから垂れた氷を登る |
4月初旬は意外にも天候が安定し、今まで登りたいと思っていた「スリップストリーム」があっさり登れたりして幸先良かったが、ここに来て完全にロッキー負の天候サイクルへと入ってしまった。本来ならば1000m切り立った壁の中でクランポンをカリカリ言わせ、寒さに震えながらのビレイやビバークをして、山の頂上を目指しているはずだったが、今は大人しくこのブログを書きながら何とか1本でも大きなクライミングがしたいとモチベーションを保っている。今年の冬も自分のクライミングをしながら、アルパインクライミングのトレーニングに対して気持ちの変化があったので、それを書きたいと思う。
自分の中でクライミングから得ることのできる楽しみは2通りある。1つは所謂コレクター的な部分で、今まで目標にしていたり、登りたいと思っていたルートや山を登ること。そして、今回私が話のネタにしたいもう一つは自身のアルパインクライマーとしての技術、知識や経験が向上した、成長したと感じる個人的な能力に関する部分である。
私は元来とても飽き性で同じ場所に何度も通ったり、同じルートを何度もトライしてRPを狙ったりというのはあまり好きではないタイプない。
スポーツクライミングの目的はそのルートを完登することにあるのだから同じ岩場に通い、何度も同じルートにトライしRPを狙っていくことは当たり前であるが、何百メートルもの距離を登らなくてはならないマルチピッチのミックスクライミングやアイスクライミング、アルパインクライミングにおいては、ルートがコンディションに左右されたり、パートナーと交互にリードを代わって頂上や終了点に立つことを目的としているため、実際の中身(スタイルと呼べるかもしれない)はかなり許容される部分(妥協を許さない人達も勿論いますが)が出てくる。困難なクライミングをして頂上や終了点に立ってしまうと「良し登れた」と思って自身のリストにチェックマークが付く。その記憶は良き(苦いこともあるが)思い出の一つとして頭の片隅に置かれ、次の目的へと向かうことになる。それが、ルートに潜在的な危険や困難さ(自分が嫌いなムーブやトラバースなど苦手意識があるルートだったり、雪崩の危険が大きかったり、プロテクションが悪いルートなど)が含まれるルートや大きな壁となるととても顕著であると感じている。アルパインクライミングは山で行うものであるからアプローチが大変だったり、雪や氷のコンディションも変わってくるので何度もトライできるタイプのクライミングではないのは前提としてあるのだが。。。しかし、それはただ登れたことを意味するのであって、中身を見てみれば、際どいクライミングで危なげにトップアウトできている場合やあそこはこうしておけば良かったとかあの判断は間違っていたなどということも多々ある。それを違う場所やルートで修正できるかと言うと私は難しいと思っている。
今年の冬は怪我の影響もあり、量としては納得の行くものではなかったが、質としては満足いくクライミングはできた。そのほとんどが今までにトライした課題が多く、コレクター的な部分での満足感ではなく経験的な満足感を得ることができた。その中で感じたことは2回目以降となるとやはりそのルートのことを朧気ながら覚えているし、少しはスムーズに登れるようになっていて成長を感じたり、自分の記憶よりも難しく感じてがっかりしたりする。でもこの経験の上塗りは外的要因が大きく影響し、変則的なクライミングを強いられるアルパインクライミングだからこそとても有効なトレーニング方法だと感じた。
私の尊敬するロッキーのトップクライマー達も高難度マルチのアイス、ミックスルートを何度も登っていたり、マウントテンプルやマウントケフレンといった一回登ればお腹いっぱいで次は、違う山に行こうかななどと考えてしまうビックウォールにも何度も通い複数回完登したりしている。そういった反復トレーニングを大きなルートや山ですることによって自身の経験値を高め、より確実なクライミングで、より早く、より安全に登るための経験値が得られ、彼らのような、強いアルパインクライマーとして成長できるのではないかという考えに至ったのであった。
The day after Hulot 2ピッチ目(M6)を登るBob菊池 |
4p目(M6)を登るBob菊池
つい先日、仲間のボブ菊池がStanley headwallにある「The day after Hulot(M7,200m
)」というルートに行きたいと言ってきた。私がロッキーに来た2015年に谷と登ったこのルートはオールナチュラルプロテクションで登れる素晴らしいルートなのは知っていたが、以前の私であったら「そこはもう登ったことあるからいいや」。「他に登るとこがないならゲレンデでトレーニングしようぜ」的なノリでボブを説得していたように思う。自分の経験がどれくらいついたのか試したい気持ちもあり、再登に出掛けたのであった。実際に二回目に登ってみると全くルートの内容は忘れていた。難しさは感じたものの以前ほどの緊張もなく、どちらかというとクライミングに集中できている自分を確認することができた。クライミング中の一つ一つのムーブや足の置き方、なんでここで足切れちゃったんだろう?とか細部まで確認しながら登ることができたのであった。
昨今のアルパインクライミングは高いクライミング技術に基づいた素晴らしいクライミングが世界中で行われている。そのレベルに近づくには自分も困難さを伴う大きな壁、山に何度も通い自分の体力、技術を高めていくことが必要になる。1年に1回の遠征というシュチュエ―ションでは登りきることを前提とした本番クライミングとなるのは間違いないが、自分の裏庭であるロッキーにおいてはコレクター的なアルパインクライミングを延々続けるよりも、経験値を高めるための反復活動をしていくことが重要なのだと思った。コンディションに左右されるアルパインクライミングで、その時行ける最も困難で自分の経験を高めることのできるルートを選択していく。たとえそれが再登であったとしても、今後に繋がるクライミングという目的をもって登っていくことが大事だと思っている。
質のいい反復トレーニングが簡単にできるロッキーという場所は本当に特別で、この地に暮らせることが、アルパインクライマーとしてどれほど恵まれているか。環境と仲間それらに感謝しながら登り続けたいと思えるシーズンであった。
現在のアルパインクライミングが分かるリンクを下に貼っておきます。特に2つ目のマウントフェイ西壁の登攀は痺れます。アルパインであのムーブしてみたいわー。
それではまた。
現在のアルパインクライミング 雪山大好きっこより
世界のトップクライマーによるロッキーでの素晴らしい初登記録
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