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2018年5月9日水曜日

Vol.122 山について僕が思うこと。(山岳ガイド編)

ご無沙汰してます。谷です。

私事ですが、この冬はACMGアプレンティススキーガイドに合格し、
チームLinkupでカリブー山脈の氷河縦走も成功し、実り多き冬になりました。
色々な先輩、友人、サポートいただいてるモンベルさまにも本当にお世話になり、
ようやくここまでこれたなと思ってます。本当にありがとうございます。
残すところ(試験)あと二つで国際山岳ガイド、日本人初のACMGマウンテンガイドになれるとこまできました。
もうすぐで昔の自分を越えることができるかもしれませんね。
試験のこと、縦走のこと、色々書けるネタはあるのですが、そういうことを考えていたら
少し昔を思い出し、今食べている山岳ガイドという職業について少し考えたくなりました。

僕の個人的な感覚が入ってるので他の山岳ガイドの方とは違うと思って呼んでもらえたら幸いです。

冒頭の写真とともに、今回のカリブー山脈氷河縦走の一コマ。
100Lザック背負ってはチャレンジング。
スキーもできなければ山岳ガイドにはなれない。
ちなみにこの斜面、たぶん初滑降



まず僕が思うガイドと一口に言ってもたくさんの業種があり、バスガイド、ツアーガイド、釣りガイド、などなど数えたらきりがなくこれに職業的に近いインストラクターの方々を入れると、とんでもない数になります。
その中で山岳ガイドは他のガイドやインストラクターの職種と何が違うかを考えてみました。
僕たちはプロなので何に対して対価を得ているか?
これが同じガイドと名前はついてもその職業の本質を指し示していると思います。
山岳ガイドの本質とは?


フィッシングガイドはその漁場に連れて行ってくれる、隠れたスポットに連れて行ってくれること、船を運転することにお金をもらっている。
スキーのインストラクターはスキーを教える事にお金をもらっている。
ツアーガイドは旅行を楽しく、時間どうりに目的地に連れて行ってくれて、チェックインなど身の回りの世話をしてくれることにお金をもらっている。

ではまず基本、山岳ガイドというのは何にたいして対価をもらっているのかというと『安全』です。
そしてこの安全というものは山によって変わります。岩山ならロープ、クライミング、雪山であれば雪崩やスキー、高所登山なら高山病などと危険や技術が変わります。低山であれば、あまり死の危険はないでしょう。またガイドを雇っていく方も少ないです。もちろんペースや天候、落石や鎖場の通過のマナー、ルートのチョイスなどの最低限の安全管理は必要でしょう。
ですがガイドブックや地図を読む人なら基本自分でいけます。
また高山や岩山と言えども山小屋があり、鎖や梯子がある山ならこれも自分たちで行くことになると思います。
それでも雇う理由があるとするならば花や植生、野生動物、その地域の歴史、文化、に精通しているなど、安全とは関係ない部分になります。
つまり、より深い知識を教えてくれるインストラクター系や楽しましてくれるエンターテイメント系の仕事か、
初めての場所や交通の便が悪い(配送サービス)、海外の山で言葉がわからないなど、その他の作業を代行してもらえるサービス業系のものと分かれるかなと思います。
どちらが上でどちらが下とかではなく、プロフェショナルとして僕はこれを山岳ガイドとは呼ばないと思います。
では誰が何のために山にガイドを雇ったのでしょう?道案内?それならこのご時世もういらないですね、多数のガイドブックが出ていて、グーグルアースあり、GPSもある。
お金払わな行くてもいけるわけです自分たちだけで。

バカブー氷河、これを通過するのに昔の人もやはり『何か』必要と思ったわけです。

山岳ガイドの起源は氷河です。昔の人たちも氷河という何かわからないけど、クレバスがあってやばい、それはわかってたわけです。
それを通過するためにロープのスペシャリストとして山岳ガイドは生まれました。
起源はヨーロッパにあります。
急な岩場とか、難しい氷壁ではなく、夏の氷河通過するために生まれたのです。
またスキーガイドもスキーインストラクターと違って氷河のある山に行くのでやはりロープの技術が必要ですね。
なのでこちらのスキーガイドは日本語で言うと山岳ガイドに含まれます。
そしてそれが派生して、高度な岩登りをする山岳ガイドが出てきたり、
冬の新雪をスキーする山岳ガイドが出てきたりして雪崩や落石を避ける技術や知識が
派生してきたわけです。
山岳ガイドは原点はロープ職人ということになります。
僕たちはロープ一本とカラビナが数枚で基本、救助など全てのことをできなければなりません。それが山岳ガイドになるための試験なのです。

今では人々が世界中、季節問わず色々な山に行くようになり、切り立った岩塔を登るなら転滑落、高山なら高山病、冬なら雪崩、凍傷など、色々な危険が増えてきました。ただ本質の安全を確保するは変わらないわけです。
危険を察知して判断し、その場所で正しい技術を使い、安全に通過する。
これで収入を得ているわけですね。
つまり言い換えれば僕たちは登りのプロでもないし滑りのプロでもないのです。
プロ野球の一流プレイヤーが一流の監督とは限らないと似ている気がします。
もちろんその中には登りのプロで山岳ガイドの人もいます。滑りがプロでガイドも、もちろん雪崩学でガイドも、
でもどちらが山岳ガイドに必要かというと強いクライマーではなくゲストの安全を確保するという技術と知識、そしてそれを実行に移せる判断力、行動力のことだと僕は考えます。また実際それを試験で評価されます。
山岳ガイドという技術、能力のカテゴリーがあるわけです。
なので日々トレーニングしないともちろん衰えていきます。
登る滑るだけではなく山岳ガイドのトレーニングをしないといけないんですね。

岩場で高難度のルートを登っているだけではガイドにはなれない。
でもガイドになってからは自分の登り滑りをやらないと良いガイドにはなれない。
そしてクライマー崩れがガイドにはなれない。
スキーヤー崩れがガイドにはなれない。
ガイドになるにはガイドのトレーニングをしなければならない。

また山岳ガイドもサービス業と考える方もいますが、それは二次的な要素であり、安全というもがあって初めてエンターテイメントの話になると思います。
楽しいというのは安全があって成り立つもの、戦争があったり、被災したりしては山は行かないですよね。平和、安全があって初めて他のことが生まれるかなと思います。
なので無口で技術のある山岳ガイドと、話がうまく気が利く危険なガイド、どちらが本質なのかわかりますよね。

今度は収入や社会的地位で考えて見ます。
山岳ガイドというのは日本ではかなりマイナーな部類に入ると思います。
そしてカナダでも地域格差があるので山がないエリアだとまだまだ何それって感じですね。
ですが山があるエリアでは人気があり、特にスキーガイドはカナダ西部の若者がなりたい職業に入ります。みんなヘリスキーでガイドしたいようですね。
ちなみに歴史的に見てもカナダはヨーロッパの国以外では初めての国際山岳ガイド加盟国
でそれだけヨーロッパのガイドが仕事に来てカナダのガイドを育てて来ました。
給与も他のガイドと呼ばれる業種より比較的高く、
日当は会社に勤めていて(電話やメールのやり取りや顧客とのやり取りの仕事なし)
$300−450、
プライベートの相場は$500−700
そしてロブソンやアシニボインなどのビッグマウンテンになると$1000超えです。
ぜひ今後日本からくる若者にも目指して欲しいですね。
自然の中で仕事ができる職業ではかなりいいと思います。
それでもヨーロッパのような国家資格ではなく、マッターホルン登頂、日当$1500とはいきません。
アシニボイン山頂の一コマ、ガイドとしてゲストと夢を共有するのは最高の時間でもあると同時にどこで引き返すかを常に問われ続ける過酷な時間でもある。

では山岳ガイドにカナダでなるには全ての試験を一発合格したとして道具など入れて最低大体500万くらいかかるのですが、これって日本でいうと教材、学費を入れた弁護士とほぼ同額になるようです。
こんなにかかる資格ってそうそうないですね。
まあなので数は少ないし狭き門ですね。しかも弁護士なるのに死なないですが、
山岳ガイドになるためにどれだけの若者が命を落としてきたか。
それを考えると難しいのはどっち?

高収入を求めるなら安全にできる仕事を探そう。
人を使って自分の働く時間を減らそう。
山岳ガイドの日本の平均日当3万として
毎日晴れたとして300日働いていくら?
たった年収900万、
50歳になってもこの値段?
命をかけても?
あなたはガイドが好きですか?
山が好きなだけなら他の道もあるはず?


最後になりましたが、山岳ガイドになったからといってそれがゴールではないとも思います。
山岳救助隊も、雪崩従事者も、山小屋も、メーカーも、メディアも北米では山岳ガイドの資格を有しているものがこの業種で働いています。
半分ガイドで半分違うことをすることによって怪我や事故があった時のバックアップにもなります。
専業ガイドもありですが半ガイド半〇〇、この形もありだと思います。
日本でもアウトドア関係の会社や組織に最低でも一人、山岳ガイドの資格を有したものがいることが、レベルの底上げにもなり、また同じ技術、知識、言語を理解できると言う意味でも関係強化、遭難防止にもつながり最終的には登山文化の発展に一役かうのではないかなとも思います。
山という文字がつく職業についている限り、どんな形でも山で食っている限り、
プロフェッショナルであり続ける、これが山岳ガイドの向こう側なのではないか?
登り続ける、滑り続ける、その先にあるものとは?

穂高北尾根での救助の一枚、またヘリコプターにぶら下がる日が来るのか?
ここに戻らない限りあの頃から一歩も進んでいない。



僕が思う山岳ガイドというのはクライマーでもスキーヤーでもなく、山岳地域での安全のスペシャリスト。
この資格がベースとして全ての国の山の業界が発展していけばいいですね。

ではまた。





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