チーム「Link∞UP」は日本と北米の‘愉快で有益な’「マウンテンライフ」情報を日本と英語圏において共有をすること。 その生活を‘一生懸命楽しんでいる人達’のコネクション強化を図ることを目的に活動しています。 日本や北米でのマウンテンライフについて情報の欲しい方や私達に興味のある方はお気軽にご連絡下さい。

2019年3月21日木曜日

Vol.165 春の安堵感とその正体

栂池自然園から見る白馬岳



山スキーヤーである私、トマホーク・カネイワは、毎年この季節になると正体不明の安堵感に包まれる。そして、たいていそのまま板にワックスをかけて収納してしまう。人に誘われない限りは春の立山にも初夏の富士山にも出かけず、上達しないクライミングに励むべく、ジム通いと適当な減量に取りかかる。私にとって3月下旬から4月にかけてはそんな季節である。


あくまでもここ数年の短い経験に基づく個人的な感触だが、例えば白馬でコンスタントにパウダーが滑れるのは一月中旬から二月中旬くらいまでのせいぜい一ヶ月程度ではないだろうか。それ以前だと雪が足りないし、それ以降だと頻度も質も少し落ちてしまうように思う。

素晴らしき哉、小谷!


二月初旬~中旬にもなると小谷の里山も十分に雪が積もり、冬型の気圧配置でアルパインエリアが大荒れでも、下部のツリーランを思う存分楽しめる。晴れれば北アルプスの稜線に足を延ばす。リスクと緊張感は高くなるが、その分得られるものも大きい。この時季の山スキーはまさに全天候型だ。

2シーズンの白馬バム生活を経て、ここ4シーズン平日は天気図や天気予報とにらめっこしながら、週末や不意の晴天を狙った山行計画を立ててきた。北アルプスが好きでその中でもエリアが広く、着のある白馬が第一志望だが、今私の住んでいる東京の西の果てからは約3時間半近くかかる。小谷や糸魚川であればさらに30分~1時間、もはや気軽に行ける場所でもなくなってしまった。


今年1月の八方尾根


積雪、天気、距離、様々なリスク、コストパフォーマンス、諸々を検討したり、天秤にかけたりしながら悩んだり、怯えたりして、山から帰ってきてもそこでの良い経験に浸ったり、失敗に後悔したり、一喜一憂の日々を過ごす。そうした中で、どちらかというと肉体よりも精神的な疲労が蓄積していく。

そして、雨が降る。一度標高の高いエリアまで降雨があり、固い氷のレイヤーができてしまうと、その後の天候によってはまた寒気が戻って雪が降っても積雪構造が不安定になることがある。机上ではそうでも行ってみると案外雨の影響が少なく、安定している場合もある。行ってみないとわからない。


デブリに埋まる谷、中ノ岳・檜倉沢


ただ一度上まで雨が降ると確実に大きな雪崩が起き、大きな谷はデブリが山積する。場合によっては谷全体を埋め尽くし、カリカリのデブリ地獄と化すこともある。一度そういうのに出くわすと、これはこれでまたやる気が削がれる原因となる。

3月上旬から中旬にかけて、雪の安定と晴天率の高まりを利用して大きな山行ができたり、シーズンの課題がうまくクリアできてしまったりすることもある。そうすると、満足感から山にスキーをしに行く理由がなくなることもある。もう十分頑張ったから、これ以上危険を冒すのはやめよう、もうこれでいいだろう、という自分を許すような感覚だろうか。


今でも怖い山の1つ、カエラズ2峰


山は恐い。不安定な白いまとまりとなった雪山は特に恐い。いくら雪崩の勉強をしたとしても、体力や技術を高めたとしても、そこに近づく限り、その危険から完全に逃れる術はないだろう。特定の山域や地形に精通して、安全マージンを高く取れば、かなりの確率で事故を避けられるような気もする。ただ、それでは私が山に行く理由の多くも失われる気がする。

厳冬期、山に行くためのパッキングをこなしながら、ふと我に返って、私は死ぬ準備をしているのではないか、と思うことがある。もちろん、山で死ぬ気はない。それが目的であればもっと手っ取り早い方法がいくらでもあるだろう。もちろん死なないための準備をする。ただ、行かなければ確実に安全圏に留まれるという点において、二元論でいえば、死の方に向かって準備を進めていることは否めないのだ。

問題は、不安要素をどのように具体化して努力や発想で消していけるかどうか。ダメであれば対象のレベルを下げるしかない。高い対象に合わせて、日々を積み重ねていける人こそが、本当の意味で強い人なのだろうと思う。そういう風に私はなれない。だから、自分のできる、自分が満足できる目標を設定しながら山を楽しんでいる。


お気に入りの観光スポット・安曇野の大王わさび農場


さて、またしてもウダウダと愚にもつかないことを並べてしまったので、そろそろまとめたいと思う。私がこの時期に感じる安堵感、それは対象を測り切れない不安からの解放であったり、やるだけのことをやって、一定の満足感や自己肯定感を得た後の、束の間の安穏のようなものだと思われる。

それが、今シーズンはまだ訪れていない。ので、もうしばらく山に通ってみようと思う。もちろん、春になっても雪の残るこの時期の山もまた怖い。日は長くなり気候は安定するが、その分急に寒気が入った時の落差が激しく、準備を怠った者には容赦がない。思うに、自然は人間に興味や関心が無い。ただただ弱いものを、埃でも払うかのように淘汰するだけである。

そんな中、もう少しだけ遊ばせて頂きたいとただ願うばかりである。

プロフェッショナルとは

0 件のコメント:

コメントを投稿