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2017年7月5日水曜日

Vol.79 私のニアミス遍歴 - 五竜・遠見尾根での道迷い

スノーシーズンが終わりまして、子育てと通勤の生活に戻りましたカネイワです。本当は無雪期も山に行きたいのですが、ここをグッと抑えることで次の白い峰々がググッと近づいてくるのです。つまり、雪の無いときは子育てに専念することでポイントを稼ぎ、雪が降ったら「お願いします」と言い残して山に繰り出す訳です。

これを基本戦略とし、昨シーズンは何とか24回のスキー山行が出来ました。序盤の寡雪にもかかわらず、3月前後に連続した降雪で残雪の多いシーズン、本当はもっと長く滑りたかったのですが、、、これ以上言うと理解のある嫁に怒られるので止めておきます。

さておき、そんな昨シーズンを振り返った時、回数の割にニアミスが多かったことに気づきました。ハインリッヒの法則によると「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」そうです。この数字は「ある工場で発生した労働災害を統計学的に調べ」た結果からくる数字なので、そのまま山の事故に置き換えることはできません。しかし、何度かニアミスを繰り返し、それを放置するうちに重大な事故が起きる、というのは必定のように思います。

そんな訳で少し過去に遡って、自分の危なかった経験を掘り起こし、分析することで今後の対策とし、また共有することで「こんな人は事故る」という例を提供したいと思います。もちろんヤマケイの羽根田さんシリーズ等、遭難に関する書物には事欠きませんが、サンプルは多い方が良いに越したことはないので、少し季節外れにはなりますが、お付き合い頂けると幸いです。

遠見尾根から五竜岳を望む

冬の遠見尾根で道迷い

「道迷い」と書きましたが、ここでは「自分の現在位置がわからないこと」を意味しています。当然ながら雪山に「道」は無く、他人の踏み跡が無ければ自分の歩いた跡が道となります。必ずしも夏道通しに歩くことが最適では無いので、雪が付いても歩きやすい所、雪崩や雪庇など冬特有のリスクが低い所を歩いていきます。自分の判断が事の正否に直結する。それも最悪の結果が「死」という重大なものであることが、日常には無い緊張感を与え、そこでの経験を特別なものにすると私は考えます。

この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ。

- アントニオ猪木 -

白岳へ

遠見尾根は積雪期の登山ルートとしては定番なので、ここでは詳しく書きません。基本的には素直な尾根で、天気が良ければまず迷うことが無い。私はそう思い込んでおりました。しかし、一旦視界が無くなると簡単に支尾根に迷い込んでしまい、自分がどこにいるのかわからなくなりうる、ということを、この時身をもって体験しました。

2014年1月25日土曜日、パートナーと二人で五竜岳のピークを踏む目的で山スキー山行に臨みました。行程は一泊二日で、初日は西遠見あたりまで、二日目は五竜岳の山頂往復と下山というスケジュールです。今でしたら天気の良い日に深夜から登り始め一日で...ということもできるのですが、当時の私は体力に自信もなく、経験も浅かったためそのような発想はありませんでした。

遠見尾根は小遠見山、中遠見山、大遠見山、西遠見山といくつかのピークを経由した後、白岳のピークまでで、そこから五竜岳までは後立山の主稜線となります。初日はゴンドラを利用して入山し、西遠見山にテント泊装備をデポ、五竜岳山頂往復としました。山頂手前は夏道が埋まっており、カチカチで緊張を強いられ、またパートナーのペースが上がらず、無事登頂しましたがベースキャンプに戻るのが遅くなりました。

朝の雪洞

翌朝雪洞で目覚めると入口が半分埋まっていました。新たにまとまった降雪があったことに加え、風で雪が吹き溜まっていたようです。雪かきをしてから朝食を摂り、準備を進めましたが、前日に登頂し「あとは下山するだけ」という意識が油断を生み、のろのろと10時前に出発しました。

午前中は前日からの悪天が残り、午後からは回復するという予報に基づいた判断でもあったのですが、実際には午前中の方が天気が良く、昼頃から夕方までは吹雪でした。入山前の予報をそのまま信じて修正しなかったことにも問題がありました。

下りは白岳沢を滑って帰る選択肢もあったのですが、直前の降雪量が多く今も降り続いていること、視界不良であること、当時このルートに関する予備知識が無かったなどから、遠見尾根を戻ることに決めました。しかし、出発してからいきなりルートをロスト。視界が悪く、前日のトレースも消えている中、安易に急な尾根を下りてしまい、登り返しました。途中小規模な雪崩が発生し、やや緊張する場面も。遠くが見渡せないとルートを見つけるのが難しく、単純だと思っていた尾根に意外にも複雑な地形があることに気づかされました。

吹雪の中登り返し

またスキーでの下りは登山での下りよりも格段に速いため、ルートミスに気付いた時点で既に結構な標高差を落としてしまっていることにも気づきました。遠見尾根は基本的に緩やかな尾根なので、急になり過ぎたと感じた時にミスに気付くのですが、その時にはスキーでは登り返せない斜度になっており、ツボ足でのラッセルにも時間を要しました。

その後順調に進むも、小遠見山を巻く際に再び道迷い。小遠見山は緩やかなピークで北西側を巻くと登り返しが無くショートカットできるのですが、行きついた先がどうもおかしい。一ノ背髪、スキー場に続く尾根はなだらかなはずなのに、今いる尾根は心なしか急過ぎるようです。とはいえ、方角は正しい。

視界が効かず印象が違うだけだろうかと思い、下る。地形図と見比べても傾斜が明らかにおかしい。この時点でもう現在地がわからない。そのため、遠見尾根まで登り返すことにする。巻いて出たポイントよりさらに先の小遠見のピークがあると思われるところまで上がってみる。ここに北東に伸びる尾根がある、という予想だったのですが、実際には東南東に伸びる尾根があるのみ...。

赤の×が道迷い地点

「これは、天狗岳へ伸びている尾根か?」

ということは「やはりさっきの尾根で合っていたのではないか」と、もう一度滑走し、200メートル以上下る。ですが、やはりこの尾根は急すぎました。立ち止まり、パートナーと議論する。私は間違っていることだけは明らかだと主張、相手は方角的には正しいという平行線。私は説得するのが面倒くさくなり、こう吐き捨てました(と記憶している)。

「じゃあ、もうここ下ってみる?結構急だし雪崩リスクは高くなるけど、地形図的に白岳沢は下れる...と思うよ」

それはどうも恐いらしかった。私にはこの時、この混乱から早く抜け出したいという焦り、そして自分は恐くない、どこでも下りられるのだという、根拠の薄い自信やパートナーに対する強がりがあったように思います。ですがその時、視界が少しだけマシになり、東の方に尾根が見えました。ここが小遠見から派生する尾根だとすると、あれほど近く尾根は見えないはずでした。

これが決定打となり、小遠見より手前を下りてしまったと確信し、再び登り返すことにしました。ここのラッセルのキツかったこと...。風雪も容赦なかったです。再び遠見尾根に復帰し、怪しい凹凸を掘り起こすと「中遠見」の標識。これには愕然と同時に安堵させられました。そして、その後は何事も無く帰ることができました(遅くにゲレンデに戻ったため、ゲレンデ整備中のパトロール関係者に怒られた以外は)。

激震が走った

中遠見の教訓

既に文中でもいくつか怪しいポイントや反省点が挙がっていると思いますし、私が気づいていない(指摘されないとわからない)問題点もあるかも知れません。私としては、ここで大きく分けて2つのポイントを挙げたいと思います。1つは晴れていれば一見明瞭な尾根でも、下りと視界不良という要素が重なれば、簡単に迷ってしまうことがあること、そしてその認識が甘かったこと。もう1つは心理的な要因により、悪い方向に舵を切ってしまうことがあること。

これは道迷い対策のためにしていることではありませんが、最近は視界の悪い日に森林限界を超える(いわゆるアルパインエリア)には入らないようにしています。樹木が無い分迷いやすこともありますし、滑走目的だと光が無いと楽しめないからです。標高の低いエリアは雪崩のリスクも比較的低く、天気が悪くても滑走を楽しめます。あとは GPS (私のはまだスマホですが...)を持ち、要所要所で現在位置を確認すること。これを使う使わないは、登山という行為をどのように捉えるかによりますし、今でも「地図とコンパスだろ」という方もおられます。

しかし、山スキーのように下るスピードが速い場合、地形の読みは早ければ早いほどよく、その判断は正確でなければ意味がありません。そう考えると、私は GPS 許容派(特に山スキーは)です。

この時見た人生初のライチョウ

心理面については、性格、年齢的なものもあるかと思いますが、これはさておき、一般論として「正常性バイアス」が働いていたように思います。「自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性」らしいのですが、一度中遠見に登り返した時に尾根の方向がおかしいと気づいていたにもかかわらず、これを過小評価して再び下ってしまうあたり、コレかなと思います。この時もう少しラッセルして、中遠見の道標を確認していれば、もう少し早く帰れたと思うのです。これは、心理面と言いつつ体力面なのですが、疲れていると手間を省いてしまったり、安易な方(下る方)へ流れてしまうという傾向でもあります。そういう意味で、体力と時間はあればあるほど良いような気がします。

結果として「ちょっと迷った」話を長々と書いたみたいになってしまいましたが、どこかで別の判断をしていたら、違った結果になっていたかも知れません。今回のケースは、1980年12月に八方尾根で起きた逗子開成高校の遭難事故に似ているように思います。八方尾根も晴れていれば迷いませんが、一旦視界不良になると意外にも複雑な尾根で、道迷いが起きやすいと言われています。そして、逗子開成高校のパーティは迷った結果、ガラガラ沢を下り、下部で6名が遭難死しています。身近なフィールドでも気を緩めずに事に当たりたいと改めて思った次第です。

これからも山に行けずにタイムリーな話題が無いときに、このような投稿を続けていく予定です。

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